相続によって上場株式を取得した人のうち、かなりの方が直面する問題に「相続した上場株式の取得価格がわからない」というものがあります。被相続人が特定口座で株式を売買していたのであれば、この問題は発生しませんが、一般口座で売買していた場合には、ほぼ例外なく直面する問題です。
なぜ取得価格がわからないと、相続人が困るのかと言うと、売却時に譲渡損益を計算することができないため、税務署に申告したくてもできなくなるからです(買値が不明である事を理由に納税しないという理屈は通りませんので念のため・・・)。
実は上場株式という財産は、「相続税」を計算する際には、被相続人の「①死亡日の終値」「②死亡月の平均値」「③死亡月の前月の平均値」「④死亡月の前々月の平均値」の4つの株価の中から、一番安い価格を採用できることになっています。しかしこの時に採用された株価は、あくまでも「相続税」を計算する際の株価評価であり、その株式を相続した相続人の「譲渡損益」を計算する際には使用できないのです。
では相続した上場株式の取得価格をどう計算するのかというと、「被相続人の取得価格」を相続人がそのまま引き継ぐという決まりになっています。
つまり被相続人が特定口座で売買していれば取得価格は常に証券会社が計算していますので、相続人はその数値をそのまま引き継げます。しかし被相続人が一般口座で売買していた場合は、証券会社が取得価格を管理していません。そこで相続人が取得価格を自分で調査することになります。
調査の方法は主に4種類です。まず1つ目は証券会社から、株式を取得した時に郵送されている「取引報告書」を見つけることです。取引残高報告書や受渡計算書などの書類で確認できる場合もあります。
2つ目はその株式を取得した際に利用した証券会社に対して、「顧客勘定元帳」のコピーを請求する方法です。
3つ目は、被相続人の残した「メモ書き」や銀行口座からの振り込みが示された預金通帳などを税務署に提出する方法です(常に税務署から認めてもらえるとは限りません)。
4つ目は、「名義書き換えの日(もしくは取得日)」を調べて、その日の終値をもって取得価格とする方法です。ただこの方法は、株式投資が未経験な相続人にとっては、少しハードルが高い作業になりそうですね。
ではこれら4つの方法をもってしても、取得価格がわからない上場株式は、どう扱えばよいのでしょうか?実はその場合、5つ目の手段として「譲渡による収入金額の5%を取得費とみなす」という方法があります。つまり1000円で上場株式を売却した際には、50円が取得価格であるとみなし、950円が譲渡益とされます(実際には手数料等も計算に影響します)。
しかしこれは相続人にとってあまりにも厳しい計算方法ですよね。なんせ上記の例で10000株売却した場合は、実際には損をして売却している場合であっても、950円×10000株×20.315%≒190万円程度の税金を納めなければならないからです(あくまでも手数料等を加味していない“概算”です)。
つまり5つ目の方法で申告することは、譲渡益税を過剰に払う場合がほとんどとなるはずですので(損をして売却した場合でも利益が出たとみなされますからね・・・)、なんとか1~4番目の方法を探ってみましょう。もし買値不明という問題でお困りの方がいらっしゃれば、一度当センターにご相談いただければと思います。
※監修 廣田証券 https://www.hirota-sec.co.jp