相続人が上場株式等を相続する場合、証券会社から「相続同意書」とか「相続依頼書」「相続手続依頼書」などと呼ばれる書類の提出を求められる場合があります(証券会社によって呼び方は異なります)。あまり聞きなれない用語かもしれませんが、金融機関で相続手続きを行う際にはよく登場するので、いったいこの書類が何を意味するのかを知っておくことは大切です。

基本的に証券会社は、取引口座を開設して上場株式の売買などを行っている方が亡くなったことがわかると、即座に取引口座しを凍結して、金銭の出金や株式の売買を行えなくします。死亡した被相続人は、出金や株式売買などの指示を行えるわけがないので妥当な措置だと思います。

またこの取引口座の凍結には、相続人が不正に相続財産を引き出すことを防ぐという意味もあります。一部の相続人に対してだけ出金等を認めてしまうと、証券会社側が他の相続人からクレームを受けかねませんので、この面から見ても妥当であると思います。

そして証券会社が行った「被相続人の取引口座の凍結」を解いて、相続人が相続手続きを進めるには、基本的には以下の3つの方法があります。

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①遺言書を提出する

②遺産分割協議書を作成して提出する(相続人全員の自署と実印の押印、及び印鑑証明書が必要)

③相続同意書を作成して提出する(相続人全員の自署と実印の押印、及び印鑑証明書が必要)

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このうち「②遺産分割協議書」と「③相続同意書」は相続人全員の自署と実印の押印、及び印鑑証明書が必要であるという点は同じですが、書面の内容が少し異なります。遺産分割協議書は被相続人の遺産の「すべて」について、どの遺産を誰が受け取るかを記載している書類です。

これに対して証券会社の提供する相続同意書は、被相続人が「証券会社に預けている財産(上場株式や投資信託、現金等)」だけに限定して、誰が受け取るかを記載している書類ということになります。つまり遺産全体を包括しているのが遺産分割協議書、遺産の一部に限定しているのが相続同意書ということですから、証券会社は原則的には遺産分割協議書の提出がある場合には相続同意書の提出は求めません。

ただし遺産分割協議書があっても、上場株式の相続に対する指示があいまいな場合(例えば証券会社名が書かれていない場合や、相続人ごとに移管する銘柄の指定がない場合)などは、遺産分割協議書に加えて相続同意書も併せて徴求したり、別紙で相続人ごとに受け取る銘柄を指定してもらい、相続人全員の自署と実印の押印を徴求するような場合もあります。

しかし・・・よく考えると、遺産分割協議書の提出であっても相続同意書の提出であっても、相続人全員の署名、押印、印鑑証明書が必要になる点は同じなので、相続人が、証券会社に相続財産全体の規模や内容を知られたくない場合は、遺産分割協議書の作成と同時に相続同意書も一緒に作成して、相続同意書のみを証券会社に提出すればよいということになりますね。

証券会社にとっては相続人がどの程度の財産を引き継ぐことになったのかは、大変重要な営業上の情報ですから、あえて遺産分割協議書を提出してまで、彼らにそんな重要情報を教える必要はないかもしれません。ちなみに相続同意書は、証券会社ごとに定型の書類があるので、相続が発生した場合はすぐに郵送してもらうことができます。

ただいずれにしても、証券会社によって相続手続きは微妙に異なる場合があるので(証券会社ごとに、リスクに対する判断基準の差異が出るため)ようなので、相続手続きはその会社の指示に従うことになります。ちなみに証券会社によっては、相続手続きを代理人が行う場合、「代理人名の書き方」まで定型の書式で細かく指定するところもあるようですよ。

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