証券会社で上場株式を購入する方法としては「現物取引」と「信用取引」の2種類が存在します。現物取引とは投資家の皆様が購入した上場株式の代金を、投資家自身の金銭で証券会社に支払う方法であり、とてもポピュラーな取引方法です。一般的に「株を買う」と言う場合は現物取引を指すことがほとんどです。

これに対して信用取引とは、投資家の皆様が購入した上場株式の代金を、証券会社や証券金融会社から借り入れて支払う方法であり、証券会社と事前に金銭の貸借契約を結んで、担保を提供しておきます。レバレッジを効かせた取引が可能になるため、投機的な株式売買を好む方には人気のある取引方法です。もちろんですが大儲けできるときもありますが、大損するときもあるので注意が必要です。

ところで被相続人が信用取引で購入していた上場株式を保有したままの状態(建玉がある状態)で死亡した場合、どのように相続手続きをすれば良いのでしょうか?実はこれについては税金の本に書かれている評価方法と、実務で採用されている方法は大きく異なっているようです。まずは税金の本に書かれている方法をご紹介します。

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買っている株式の購入時金額 → 債務として評価(証券会社から借りて購入しているため)

借入により支払う金利      → 債務として評価 

買っている株式の時価評価額 → 資産として評価

担保金・担保有価証券      → 資産として評価(通常の財産評価額)

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上記の内容を見ると、被相続人名義の信用取引内容を相続人名義に移し替えて、相続人がまるまる信用取引を引き継ぐようなイメージになります。ですが、現在はほとんどの証券会社で相続人に信用取引内容を移管することは行っていないと思います。

ではどのように扱うのかというと、実務的には被相続人の死亡が証券会社に知らされた場合に、すみやかに証券会社側は被相続人が信用取引で購入していた株式を「強制売却する」という取り決めになっているところが多いようです(たぶん商品先物取引の決済を巡る平成13年12月18日判決を考慮して、このような対応になったのではないかと思います)。

このような証券会社の実務ルールを踏まえた場合、相続人が特に気を付けなければならない点は「信用取引を行っている被相続人が死亡した場合、相続人は早急に証券会社に連絡する」ということです。つまり被相続人が亡くなったら、なるべく早く証券会社に連絡して強制売却してもらうということが大切なのです。

なぜなら連絡が遅くなってしまっている間に信用取引で購入していた上場株式が大きく値下がりすると、担保の範囲で信用を維持できなくなり、「追加証拠金(いわゆる追証)」などを請求される可能性が高まるからです。連絡が素早いほどそのリスクも低くなります。

もちろん連絡が遅くなった間に、結果として株価が上昇して儲かったという場合もあるでしょうが、逆になると悲惨です。これらを踏まえて一般的に言えることは、健康に不安のある高齢の方は信用取引を控える方が無難だということです。ただし趣味として信用取引を行っている高齢者の方もいらっしゃるので、その場合は推定相続人の方が高齢者の健康状態と信用取引の状況に常に気を配っておくべきですね。

※監修 廣田証券 https://www.hirota-sec.co.jp