東京証券取引所の1部に上場している企業数は、2022年1月時点で約2200社にも上ります。そしてこれらの企業それぞれに、様々な株主が存在しているのですが、とりわけ発行済み株式数の10%以上を保有する株主のことを、その企業の「主要株主」と呼んだりします(一般的に使う「大株主」という用語には明確な定義がありません)。

ところで皆様方は主要株主に「財務大臣」が入っている企業が存在することをご存知でしょうか?実は「三公社・五現業(さんこうしゃ・ごげんぎょう)」とかつて呼ばれていた公共企業が上場する場合に、財務大臣が主要株主であるという状態が発生します。例えば「日本郵政(6178)」「日本たばこ産業(2914)」「日本電信電話(9432)」などは今もって財務大臣が筆頭株主です。

ちなみに三公社の1つである日本国有鉄道(国鉄)がベースの「東日本旅客鉄道(9020)」「西日本旅客鉄道(9021)」「東海旅客鉄道(9022)」では、すでに財務大臣の持ち株はゼロになっています。ニュースなどでたまに耳にしますが、公共企業がこの状態になることを「完全民営化」といいます。

ところで・・・上記のような企業以外でも、ごく稀に主要株主に財務大臣が入っている上場企業が存在します。なぜそのようなことが起こるのかというと、上場企業の大株主の相続人が、相続税を納めるために相続した株式を「物納」することがあるからです。

これは実際にあった話ですが、ふぐ料理を提供する「関門海(3372)」という上場企業の創業者が、平成17年に交通事故で亡くなるといったことが起きました。

相続人は、被相続人の「①死亡日の終値」「②死亡月の平均値」「③死亡月の前月の平均値」「④死亡月の前々月の平均値」の4つの株価の中から、一番安い価格を採用して相続税評価額を計算します。しかしその当時は、株式市況が悪化していた上に、関門海自身も業績見通しを下方修正したことが重なり、相続人が相続税を支払わねばならない頃には、関門海の株価は相続税評価額の60%程度にまで下落してしまっていたのです。

それでも相続人は、相続した関門海の株式を株式市場で売却して、相続税を納めなければならないのですが、関門海の経営陣側としては、主要株主である相続人に株式市場で株式を売却されると、浮動株が増えてしまうことから、将来的に買い占めなどにあう可能性も否定できません。また経営基盤も脆弱となってしまいます。もちろん申告時の関門海の株価が大きく下落していたため、相続人側から見ても物納が有利となりました。

そこで関門海の経営陣は相続人等と協議して、いったん相続税を納めるために株式を「物納」してもらい、その後のしかるべき時期に、経営陣が財務大臣から株式を買い戻すという形にすることを提案したのではないかと、推察しています。 確かに、関門海の株式を財務大臣に物納することにより、他の得体のしれない株主に株が分散することを防げるので、経営陣が買い戻しやすくなりますね。また財務大臣の場合は経営の細かい点に口出しすることもありません。これらは物納制度の利点といえます。もちろんですが税務当局が簡単に物納を認めてくれるかどうかは別ですが、次回のコラムでもう少し詳しく上場株式の物納をご紹介したいと思います。

※監修 廣田証券 https://www.hirota-sec.co.jp